あなたは、こんなことをしたことがあるでしょうか。
「来月、大事な試験を控えているので、神社に行って合格祈願した」
「人前で話すときに緊張するので、直前に手のひらに「人」の文字を書いて飲み込んでみた」
「商売繁盛するように、ガネーシャ(像の神様)の置物を買った」
いわゆる、「縁起を担ぐ」「験(げん)を担ぐ」などと呼ばれることです。
良い結果になったら「思いが通じたのだ」と喜び
悪い結果になったら「運が悪かった」「やり方が悪かった」と残念がります。
実際には、「験(げん)担ぎ」の行為と結果との間には、因果関係はないはずです。
それでも、「その行為をしなかったことで、損をしたり災難にあいたくない」と感じます。
ほとんど関係ないことだと思っているのに、一応やっておこう。見ておこう。
そして、人は時に全く見当違いの行為が、結果につながる方法だと勘違いすることもあります。
これを心理学では「非合理なストーリー構築機能」と言うようです。
この機能は、人間だけにあるのではなく、動物にもあります。
なんと「鳥の脳」にまで遡ります。
スキナーの鳩
バラス・フレデリック・スキナー
Wikimedia Commons
1948年に、アメリカの心理学者であるバラス・フレデリック・スキナーは、「鳩」を使った実験をしました。
空腹の鳩を、実験用の箱に入れて、鳩がどのような行動をとったかにかかわらず、5秒ごとに餌が出るようにセットしました。
すると、8羽のうち6羽の鳩が、餌を出されるまでの間に「特定の行動」を繰り返しました。
「特定の行動」とは何か。
例えば、餌が出る直前に頭を上げたり、実験箱の中をひと回りしたりする、などの行動です。
鳩によって、その行動は違います。
スキナーは「まるで鳩は、その行動が原因で餌が出ると思い込んだかのようだった」と報告しました。
つまり、鳩は、餌が出る直前の自分の行動のおかげで餌が出た、と思いこんだというのです。
鳩の行動は、人間の「迷信」と同じメカニズムで行なわれたものだと考えました。
いわゆる「迷信行動」と呼ばれるものです。
スキナーの言う通り「迷信行動」を行ったとしたら、鳩はいったいどんな「きっかけ」でその「迷信」を抱くようになったのでしょうか。
研究によるとこれは、「偶然の経験」をきっかけにして始まることがあるようです。
例えば
「最初に〇〇をしたら、うまくいった」
「〇〇をしたら、災難を避けることができた」
こうした経験が「迷信行動」のきっかけになるというのです。
猫のポール押し行動
スキナーに先だって1946年に、ガスリーとホートンも実験を行なっていました。
「猫の実験」です。
箱の中央に棒(ポール)をぶら下げて、猫が「どの方向にポールを傾けても」ドアが開き、箱から出られるようにしました。
そして、箱の中に猫を入れます。
猫がポールを傾けた瞬間に設置したカメラのシャッターがおりて、写真を撮る仕組みです。
実験の結果、最初の2~3回の行動が終わるとどの猫も「ある特定の方向にだけ」ポールを傾けるようになりました。
傾ける角度は、猫によって違います。
しかし、どの猫も「どれか一方向」に傾きを定めるのです。
鳩の時と同じように、猫も、偶然にうまくいった(ように見える)行動があると、それが結果と結びついていると思ってその行動だけを繰り返すのです。
そして「他の方法を取らなくなった」ということです。
これは明らかに、猫の「思い込み」によるものです。
成功者やスポーツ選手の「験担ぎ」
さて、人間の話です。
「迷信行動」は確かに奇妙ですが、人に思わぬパワーを与えることもあるようです。
成功者やスポーツ選手たちの中には、「験(げん)を担ぐ」ことを大事にする人が大勢がいます。
以下がその例ですが、みな個性的でこだわっています。
※ちなみに、彼らが何故そうするようになったのか、また、そうしたらうまくいったのかどうか、確かなことはわかりません。
推理作家:アガサ・クリスティ
「風呂に浸かりながら固い物を食べる」
理論物理学者:アルベルト・アインシュタイン
「小さな成功をイメージしてから作業する」
※これは「験担ぎ」というよりも、彼の行動ルールやモットーだったのかもしれません。
マイクロソフト創業者:ビル・ゲイツ
「馬の置物を収集する」
鴻海(ホンハイ)精密工業(シャープを買収した会社):郭台銘会長
「重要な期日や場所などを、全て『縁起』を意識して決定する」
「お守りとして金色のマフラーを身に着ける」
Wikimedia Commons
映画監督:黒澤明
「休日に爪を徹底的に磨き上げる」
Wikimedia Commons
野球の神様:ベーブ・ルース
「試合前に『空樽』を見るとヒットが打てる、と信じた」
※実際に自費で手配した空樽を積んだトラックをわざと選手の前で走らせたところ、チームが絶好調になったといいます。
Wikimedia Commons
プロテニス:ビヨン・ボルグ
「トーナメント中は決してヒゲを剃らない」
Wikimedia Commons
プロテニス:セリーナ・ウィリアムズ
「試合中は同じ靴下を履く」
「独特な方法で靴ひもを結ぶ」
Wikimedia Commons
プロ野球:鈴木一朗(イチロー)
「必ずスパイクを左から履く」
Wikimedia Commons
バスケットボール:マイケル・ジョーダン
「ここぞという場面で舌を出して動かす」
「出身校であるノースカロライナ大学のショートパンツを、ユニフォームの下に履く」
人の数だけ、「験担ぎ」の方法はあるでしょう。
それにしても、スポーツ選手の「験担ぎ」には、シビアな勝負の世界が想像できます。
勝つか負けるか、常にその瀬戸際に立たされている。
そんな心理状態においては、「験担ぎ」は、メンタル面で重要な役割を担っているのかもしれません。
精神を落ち着けて、やる気を呼び出し、自己のパワーを高めていく。
スポーツでも勝負事でも、ビジネスでも、人のメンタルは非常に繊細で影響されやすいことを示しているのでしょう。
「人は思った方向にしか進まない」とよく言われます。
幸運を信じる気持ちは、プレッシャーに負けそうな自分をプラスの方向に押し出してくれるかも知れません。
逆に、嘆きや悲観的な心理状態が続けば、いつもそればかりをイメージしてしまい、マイナスの方向に向ってしまうのも、うなずけます。
やはり、「思い」と「行動の結果」には因果関係があるのです。
一度抱いた「思い込み」に囚われる
経験による「思い込み」は、人を過去の結果に縛り付ける道具にもなるようです。
スキナーは、「本来、自由な意志というのは幻想に過ぎない」と考えていました。
「人間の行動は、過去の行動の結果によるものだ」というものです。
例えば、こういうことです。
「〇〇をしたらまた損をする。効果がない。不愉快だ。だからもう二度とやらない」
「〇〇をしたら気分が良くなる。得をする。楽になる。だから何度でもやりたい」
ごく当たり前の考えや行動のように思えます。
うまくいったことを繰り返し続けるのは、生き残るためであり、失敗から遠ざかることです。
生き物にとって、当然の選択と言えるでしょう。
しかし、この思考パターンには、落とし穴もあるようです。
一度「悪い結果」を経験すると、それが本来は良い結果を生む行動だとしても、やらなくなってしまう。
あるいは、一度「良い結果」を経験すると他の方法を取らなくなってしまう。
「経験」によって、より広い可能性や真実から目を遠ざけてしまうということです。
「猫が一方向にしかポールを傾けなくなった」という行動そのものが、いい例です。
ポールはどの方向にも倒れる
スキナーが言う通り、人は「経験」や「思い込みに」縛り付けられやすのでしょう。
自分が見つけたポール倒しの方向は、もしかしたら「思い込み」なのかもしれない。
ポールは、思いもよらない方向にも倒れるのかもしれない。
しかしこのことに気付くのは、たやすいことではないでしょう。
気持ちを落ち着かせていた「迷信」や「思い込み」を取り払ってみる。
真実だと思っていたことを、もう一度見つめなおしてみる。
それには、柔軟な精神と謙虚な心が必要です。
何度でもゼロに戻して考え直すという、辛抱強く素直な心が必要です。
果たして私たちは、物事に対してどこまで素直な目を持てるのでしょうか。
どこまで、視野を広く保てるのでしょうか。
「スキナーの鳩」や「ガスリー&ホートンの猫」は、動物の生態を通して人の行動を俯瞰して見るためのモデルにもなるのかも知れませんね。
ではまた!
(「猫の実験」については、「放課後等デイサービス ほーぷ」などより
https://mail.omc9.com/l/02ncIn/GQ5XZJ6g/
「勝負の世界、スポーツ選手のジンクス」については、「ジャパニーズカジノ.com」などよりhttps://mail.omc9.com/l/02ncIn/aq0AHv4r/
「有名人のゲン担ぎ・ジンクス」については、NAVERまとめ「あやかりたい!有名人・著名人の『験担ぎ』『ジンクス』のまとめ」などより
https://mail.omc9.com/l/02ncIn/mkTbsrDI/
抜粋・引用・加工しています)
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