空地の前でタクシー運転手がしたこと
僕はこれまで、7回にわたり引っ越しを経験しました。
いずれも東京23区内の引っ越しです。
7回にわたって物件を転々としたのですが、その中の一つに、古い団地のアパートがありました。
なんと、昭和40年(1965年)に建てられた、団地の中の一棟。
新築当時は最先端の建物だったのでしょうが、今ではエレベーター無しの5階建で上り下りがしんどいです。
鉄筋ですが、窓の建てつけも悪く、相当古びていました。
居住者は、新築当時に入ったと思われる人たちが多く、全体に高齢化していました。
※この記事執筆時点で、すでに10数年前に取り壊されています。
アパートの前には川が流れ、その周辺は広々としていました。
ただ、川といっても魚が泳ぐようなきれいな川ではなく、どぶ川に近いです。
広々といっても、有刺鉄線で囲われた空地や駐車場のある、ちょっと寂しい雰囲気の一角でした。
きっといつか再開発されて、きれいになるんだろうな。
そんなイメージのエリアでした。
さてその周辺では、車通りが少ないのをいいことに、タクシーがよく昼寝のために路上駐車していました。
川沿いや空地の横に車をとめて、昼寝するのです。
当然、駐車違反です。
それだけならまだよいのですが、運転手が、車中で食べたコンビニ弁当のカラやタバコの吸い殻などを、その空き地の脇に捨てていました。
ゴミ捨て場でも何でもない、普通の路上なのに、です。
すぐ横に(僕がいた)アパートがあって人が住んでいるのに、です。
一体何を考えているのか。
そして、さらなる事件は起こりました。
車から降りたタクシーの運ちゃんが、何とそこで小用を足しているではないですか。
真昼間に、大の大人が住宅地の路上で、堂々と小〇をしている!
近くには公園もあり、その公園にはトイレがあります。
タクシーの運転手なのだから、当然ながら、どこに車をとめやすいとか、どこに公園があるかぐらいは知っているはずです(僕は昔、宅配のバイトをしていたことがあるので、想像がつきます)。
なのに、すぐそばにある公衆便所ではなく、わざわざ道でしたのです。
僕は「おい!!」と叫ぼうとしました。
警察に通報しようかと思いました。
だって、自分が住んでいるアパートのすぐ横でされてるんですから、たまりません。
しかし運ちゃんは、あたりまえのことのように、すぐにタクシーに乗って行ってしまいました。
これは、一体どういうことなのか。
その運ちゃんが、「どこでもドア」ならぬ「どこでも便所人間」だったのか。
単に魔が差しただけだったのか。
いやいや、そんな態度ではなかった。
当然のような表情でそれを行っていた。
怒りと悲しみを乗り越えて考えたところ、僕は次の結論に達しました。
そこが「そうしてもよいと思われた場所」だったからです。
「割れ窓理論」とは何か
「割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論:Broken Windows Theory)」という考え方があります。
アメリカの犯罪学者であるジョージ・ケリングが考案した、次のような理論です。
- 建物の窓が壊れているのをそのまま放置すると、それが「誰もその地域に関心を払っていない」というサインになる。
- そして、ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
- 汚れてくるにつれ、次第に住民のモラルも低下して、地域の安全確保に協力しなくなり、それが環境を悪化させる。
- 最終的には、その周辺で犯罪が多発するようになる。
なんと・・・!
これ、思い当たることがありますよね?
その場所が汚いから、感覚がマヒしてくるのか。
感覚がマヒしているから、その場所が汚れるのか。
どちらが先かはわかりませんが、確かにそういうエリアはあると思ます。
そして、僕の住んでいたアパートの隣の空き地の前の道が、きっとそうだったのです。
そこは、もともとゴミが溜まっていたわけでも、道が崩壊していたわけでもありません。
普通の道です。
しかし、どぶ川の横、有刺鉄線や人気のない雰囲気、ガランとした空間、そして古い団地アパート。
そうした総合的な状況が、きっと何らかのサインになっていたのでしょう。
「ここにゴミ捨ててもいいよ、小〇してもいいよ!」と。
普通の場所が「ゴミ捨て場」になってくるプロセス
よく、森の中や雑木林、空き地などに、違法に粗大ごみが捨てられていることがありますよね。
そこは、最初から汚れた場所ではく、最初はただの雑木林や空き地だったはずです。
そこにあるとき、フックになるゴミが投げ入れられたのに違いないのです。
もちろん、最初に捨てた人にそんな意図はないでしょう。
しかし、その最初のゴミを見た別の人が、「あ、ここは捨てていいんだな」という感覚になって、ゴミを捨てる。
またそれを見た人が「あ、ゴミ捨て場だ」と思って、ゴミを捨てていく。
やがて、粗大ごみの処理に困った人が「あ、あそこの空き地に捨ててこよう」と思って、わざわざその空き地に粗大ゴミを捨てに行く。
そういう流れは、想像に難くありません。
軽微な状態からしっかり片付けていく
「割れ窓理論」は、荒廃せずによい環境を維持させるため、あるいは無法地帯となってしまった場所を改善するための考え方です。
具体的には、次のような措置です。
- ゴミはきちんと分類して捨てるなど、一見無害に見えたり軽微な秩序違反であっても、取り締まる。
- 警察によるパトロールや交通違反の取り締まりを強化していく。
- 地域の人々も警察に協力し、秩序の維持に努める。
これを見ると、そのエリアが犯罪エリアになる過程と、それを予防・改善する過程に、共通して言えることがあります。
それは、「地域の人々の意識」です。
地域の人たちが関心を示さなくなってきて、荒廃していく。地域の人たちのモラル自体も低下してくる。
普段ちゃんと掃除をする人であっても
「汚い場所では気を使わなくなる」
「汚い場所に慣れていってしまう」
「関心を失っていく」
とすれば、おそらく、
その場所の状況に人間が影響されてしまっていますよね。
広い意味で、「順応してしまう」ということでしょうか。
場所が汚れる→人の関心が薄れる→さらに汚れる、の悪循環です。
「割れ窓理論」で犯罪の抑制に成功
「割れ窓理論」を用いて、犯罪の抑制に成功した例が、国内外にあります。
1994年に、アメリカのニューヨークのルドルフ・ジュリアーニ市長が「割れ窓理論」を応用した対策にのり出しました。
ニューヨーク市内の落書きや違法駐車など、軽犯罪を徹底的に取り締まったそうです。
すると、5年間で犯罪の認知件数が、殺人が67.5%、強盗が54.2%、婦女暴行が27.4%減少して、治安が回復したそうです。
驚くべき効果です。
こうしたことは、日本でも行われています。
2001年に、札幌中央署が「割れ窓理論」を「違反駐車」に置き換えて、「すすきの環境浄化総合対策」として犯罪対策を行ないました。
北海道内最大の歓楽街である「すすきの」で、駐車違反を徹底的に取り締まったのです。
すると、路上駐車が対策前に比べて3分の1以下に減少し、同時に地域ボランティアとの協力による街頭パトロールなどの強化によって、
2年間で犯罪を15%減少させることができたということです。
この後、全国各地の警察署からヒアリングなどが活発化したそうです。
いずれのケースも
「ここは汚い場所ではない」
「違法駐車してよい場所ではない」
「軽犯罪であっても、許される場所ではない」
という強い意識が、人々に浸透したのでしょう。
スティーブ・ジョブズも応用していた「割れ窓理論」
「割れ窓理論」は、ビジネスでも応用されてきたようです。
ディズニーランドやディズニーシーです。
敷地内のささいな傷もおろそかにせずに、ペンキを塗り直し、壊れた箇所の修繕を頻繁に行うことが、徹底されているようです。
これによって、従業員のマナーもゲストのマナーも向上させることに成功している、と言われています。
日本電産の永守社長は言います。
「儲かっていない会社にはいくつか共通点があるのです。
一つは社員の士気が落ちています。
会社の士気が落ちていると当然工場は汚いですよ。事務所も汚い。
電話の応対がいいかげん。マナーがなっていない。
つまり6Sができていないのです」
※6Sとは、整理、整頓、清潔、清掃、作法、躾の6つのS。
そして、かのスティーブ・ジョブズも「割れ窓理論」を利用したようです。
スティーブ・ジョブズがアップルの改革でまず対処したことは、社内の空気を一新することだったそうです。
彼が復活する前のアップル社内は、遅刻があたりまえになっていたり、社内にペットを持ち込んで犬と遊んでいる社員までいたという始末。
ペットの持ち込みを禁止するなどを初めとして、ジョブズは仕事環境を徹底的に変えていったそうです。
そうしたことによって、社員たちの意識を変えたのです。
自分のデスクに目を向ける
思えばこれは、小さなところでは、自分の部屋やデスクにも言えることですね。
いつまでも置きっぱなしの書類があったり、読むことのない本がただ飾ってあるだけ(デッドスペース)、PCの裏側で綿ぼこりが成長する (^^;)、キーボードは打つ場所以外埃が定着していく・・・。
書き出したらキリがないほど、荒廃した風景です(はい、僕の部屋およびデスクです:涙)。
これでは、いいアイデアは浮かびません。
仕事がはかどるはずがありません。
もちろん、何もかもきっちり考え過ぎては、苦しくなってしまうでしょう。
しかし、そこが仕事場であるならば、最低限やるべきことはあるはずです!(自分に言っています ( ;∀;) )
僕はまず、自分の部屋の中で軽犯罪が発生しないように、つまり、部屋の汚れとともに自分の心が荒廃してしまわないように、ちょっと取り締まってみることにします。
はい、自分をです (^^;)
ではまた次回!
当記事は、以下のサイトから 抜粋・引用・加工しています
Wikipedia(割れ窓理論)
https://bit.ly/3fjKzNI
刑事告訴・告発支援センター
http://www.xn--4rra073xdrq.com/r_ware.html
NAVERまとめ
https://matome.naver.jp/odai/2142963921231838201
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