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「懐かしさ」の正体とは何か。ノスタルジアが心を癒し未来を作る。

 

ある穏やかな春の日。

ひとりの少年が、小川に沿った小道を歩いている。

 

年のころ8 、9歳だろうか。

しゃがみ込んで、小川を見つめると、水の窪みに、蛙の卵が浮いている。

周囲に聞こえるのは、鳥のさえずりと、木の葉の音そして、小川のせせらぎだけ。

 

小道を進むと、古い農家があり、崩れかけた納屋がある。

納屋は、古い木材と土のにおいでいっぱいだ。

 

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彼は、友だちの家へと向かっている。

 

今日は、何をして遊ぼうかな。

草むらで秘密基地を作るか、ザリガニ探しをするか。

早く友達と遊びたくて、つい早歩きになってしまう。

 

とその時

 

轟音をたてて、目の前を大きなトラックが走り抜けた

水たまりの泥水が跳ね上がり、少年は反射的に飛びのいた。

 

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驚いて目を上げると、目の前には大きな道路がある。

トラック、乗用車、バイク、路線バスが、排ガスと粉塵を巻き上げて走っている。

 

いつの間にこんな道路ができたのか!


振り向くと、歩いて来た砂利道はない

農家も、納屋も、小川もない。

あるのは、コンクリートのマンションや、ひしめきあって建っている住宅群。


少年は、10年前のある春の日の記憶の中を旅していたのだった。

そして、一瞬にして戻ってきてしまった。

 

この10年間で、彼が親しんできた世界は激変した。

山が切り崩され、小川が埋め立てられ、アスファルトで全てが埋め尽くされた。

昔の風景は、すべて失わてしまった。

 

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彼の心には、胸を焦がすような、

例えようもないほどの切ない「ノスタルジア(郷愁)」が残った。

 

 

●「郷愁」とは何か

冒頭の少年は、僕です (^-^)


時は昭和40年代後半、高度経済成長期の終わり。

急激な工業化とともに、ヘドロや光化学スモッグなどの公害が社会問題になっていたころ。

 

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東京・渋谷から電車で40分ほどの川崎市内のこのエリアには、まだところどころに自然が残っていました。

その中で、毎日のように泥だらけ、擦り傷だらけになって遊んでいました。


僕がちょうど泥遊びをしなくなったころ

猛烈な開発の波が押し寄せて、遊び場だった丘や林はなくなりました。

 

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時が過ぎ、大人になった僕は、地図を見ては山や川だったところ、納屋があったところを思い出し、切ない想いを抱いていました。


二度と戻らない風景、二度と戻らない時間。

強烈な「懐かしさ」に襲われます。


この、胸を焦がすような「ノスタルジア(郷愁)」の正体とは、いったい何なのでしょうか?

 

●スイス人兵士の病

1688年ごろ、ヨーロッパの戦場にいたスイス人の傭兵たちが、ある異常な事態に陥っていました。

戦場で、故郷を懐かしんで帰りたがる気持ちに襲われて、苛まれていたのです.


いや、それだけではありません。

体も変調を起こしていました。

 

pixabay


不安になり、動悸や食欲減退を起こし、不眠になり、ヒステリーの発作で泣き叫びました。

高熱を出すこともあったそうです。

当然ながら、こうした症状は軍隊の能力や士気に影響したことでしょう。


スイスの医師ヨハネス・ホーファーは、こうした症状を「nostalgia(ノスタルジア)」と名付けました。

「nostalgia」は、ギリシア語の「nostos(家へ帰る)」と「algia(苦しい状態)」をくっつけた造語なのだそうです。

 

「ノスタルジア」は、「故郷へ戻りたいと願うが、二度と目にすることができないかも知れないという恐れを伴う、病人の心の痛み」とされました。

 

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1900年代も、精神医学者たちは、ノスタルジアをセンチメンタルな「病気」ととらえてきました。

「現在の状況に順応できない者が起こす神経症」
「メランコリー(憂鬱)の病のひとつ」

などと言われてきました。

こうした傾向は、1970年代まで続きました。

 

ここで、よく使われるけど違いが分かりづらい「ノスタルジア」の言葉について、整理しておきましょう。

ノスタルジア(nostalgia)」は、英語の名詞
ノスタルジック(nostalgic)」は、英語の形容詞
ノスタルジー(nostalgie)」は、フランス語の名詞です。

いずれも、意味は同じです (^-^)


さて、1979年になると、「ノスタルジア」の見方に転機が訪れます。

 

●懐かしさはポジティブな気持ちを生む

1979年に、アメリカの社会学者のフレッド・デーヴィスは、唱えました。

ノスタルジアとは、「古き良き時代」「温かい」「子ども時代」などの肯定的な言葉を連想させるものである。

懐かしさは、ポジティブな意味合いを連想させるのだ。

 

pixabay


そして2006年には、「ノスタルジックな想い」についての詳細な調査が行われました。

イギリス・サウサンプトン大学の心理学者ティム・ヴィルドシャットの研究グループは、次のような調査結果を発表しました。


「ノスタルジー」とは、「自伝的記憶」のひとつである。

ノスタルジックな過去の情景の中では、人は「自分自身を主役」にしている。

その記憶の物語には、自分が救済や克服に向かう場面があり、最終的に良い結果で終わることが多い

悲劇的な結果になった物語は、調査ではほとんど聞かれなかった。


多くの人に「ポジティブな気持ち」が生じて、自分にとってよい効能を示していることが多かったのだ。

 

pixabay

 

●どこにフォーカスを当てるのか

しかし、ただ懐かしむだけでは足りない、と唱える人もいます。

アメリカ・ノースダコタ州立大学の社会心理学者クレイ・ラウトリッジです。


彼は、こう唱えます。


懐古が、現在から目を背けるためのものであってはならない

「あのころはよかった」という部分ばかりに注目すれば、「現在はそうではない」という考えにとらわれてしまう。

それでは、肝心の「現在」を否定してしまうことになる。


現在から目を背けるために過去に気持ちが戻っている時、人は「新しい経験をしていない」。

そこが問題なのだ。


過去の懐かしい出来事が、その後の人生にどんな意味をもったのか、どれほどポジティブな効果をもたらしたのか、そういうことに目を向けていくべきなのだ。

大事なのは、「どこにフォーカスを当てるのか」ということだ。

 

pixabay


確かに、過去にばかり固執していたら、現在と未来によくない影響を与えるかもしれません。

ラウトリッジの考え方は、いわば、ネガティブな状態にとらわれないための心理的なメソッドと言えるでしょうか。


しかし、「懐かしさ」の感じ方・とらえ方は、その人の個性やその時の状況によるものです。

決して、前向きになることを強制できるものではないでしょう。

「こうであるべき」という助言が、無用なストレスを与えてしまう場合もあります。

 

もし「今より昔の方が良かった」と思いつめている人がいたとしても、その人はいつか、自ら前を向く気持ちになるかもしれないのです。

 

●「回想脳」を勧める日本の学者

積極的に懐かしがる」ことを勧めている博士が、日本にいます。

東北大学加齢医学研究所の医学科博士・瀧 靖之氏です。

彼は、著書「回想脳~脳が健康でいられる大切な習慣~」の中で、「回想脳」について論じています。

(「回想脳」とは瀧博士の言葉で、回想によって健康になる脳を意味します)

 

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彼は言います。

過去を積極的に振り返れば、自分の中から幸福感が湧いて、ストレスが解消される

そうすれば、前に向かって進んでいこうと思えるようになるものだ。


実際に、認知症の医療現場・介護現場では、 昔を懐かしむ「回想法」という手法が、脳の活性化のために取り入れられています。

 

●「ノスタルジア」の正体

しかし・・・「ノスタルジア」のもう一つの面が気になります。


自分は全く経験したことがないのに、懐かしさを覚える。

そうした場面や場所、映像に遭遇したことが、ないでしょうか?


例えば・・・

自分が生まれる遥か前の時代の写真、初めて訪れた町の古い建物、

廃墟、道に残る廃線の跡、遺構、初めて聞くオルゴールの音・・・


こうしたものに接したとき、強く心が惹かれることが、僕にはあります。

 

pixabay


初めてなのに懐かしさを覚える。

これはいったい、何故なのでしょう?


知らず知らずのうちに、写真やテレビで「懐かしさ」としてインプットされてきた情報があるのでしょうか?

あるいは、自分の懐かしい記憶と「どこか似た風景」なのでしょうか?

 

実業家であり著述家である松岡正剛氏は、アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「ノスタルジア」を例にして、次のように書いています(意訳します)。

※映画「ノスタルジア」とは、イタリアを旅するロシア人作家の情景を綴った物語で、郷愁を感じずにはいられない風景が交錯する。

 

pixabay


映画「ノスタルジア」の映像が忘れられない。

なぜ忘れられないのだろうか。


「ノスタルジア」とは、必ずしも過去への郷愁ではない。

例えば、「元いた故郷」に対する郷愁は、実際にはその「元いた故郷」がどこだかわからなくともノスタルジアが生じることがある。

こういう場合は、「故郷」ではなく「原郷」という。


ありえないその「原郷」が、何となくあるような気がして、胸をかきむしられる思いになることがある。

タルコフスキーは、その「ありえないところ」なのに「ああ、そうかもしれない」と思えるようなところを、映像で綴ったのだ。

 

つまり、こう言えるでしょうか。


経験したかどうかにかかわらず、心に響く懐かしさ、切なさ、どうしても再現してしまう記憶の情景、故郷のイメージ

それが「ノスタルジア」である。

「ノスタルジア」によって人は癒され、時にはそれにとらわれてしまうこともある。

 

pixabay


いずれにしても、人は「懐かしさ」を抑えることはできません。

素直に「懐かしさ」に浸り、味わってみるのもよいでしょう。

その中に、自分のどんな思い、自分のどんな時代が詰まっているのか、覗いてみたいものです。


古い本を読み直す時のように、「ノスタルジア」を感じる自分の年齢によって、違う答えが返ってくるような気がします。

 


最後に、「ノスタルジア」を味わえる映像を、2つ紹介します。

ロシアの監督アンドレイ・タルコフスキーの映画「ノスタルジア」

mail.omc9.com

イタリアを旅するロシア人作家の体験を、光と影、水の映像美で織りなす静かで繊細な映画。Amazonプライムでも見れると思います。


YouTubeチャンネル「Old Japanese Memories」。

mail.omc9.com

さまざまな地域の歴史や今昔の変化を、丹念に調査・紹介する動画チャンネル。
あなたの地元の歴史を再発見したり、まだ見ぬ知らない町に行きたくなるかもしれません。

 

 

ではまた!

 

(当記事の内容の一部は、以下のページより引用・抜粋・ 加工しています。
ライフハッカー[日本版]瀧 靖之「回想脳~脳が健康でいられる大切な習慣~」松岡正剛「ノスタルジアの社会学」書評

 

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